経営者保証ガイドラインを活用した廃業の方法 破産よりも資産を残せる?

- この記事の監修
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株式会社リスタートスタイル 代表取締役 / 廃業コンサルタント 西澤 佳男 (にしざわ よしお)
起業3回廃業2回うち民事再生1回、双子のパパ。
ベンチャーの起業・複業・廃業の領域で「社長のサバイバル」を支援しています。
廃業の件数が2020年には過去最多となる5万件を超え、2021年8月の新型コロナ関連の経営破たんが124件となっており、7か月連続して100件を超えており高い水準を維持しています。(東京商工リサーチ調べ)。コロナウィルスの終息が見えない中、中小企業の経営者は不透明な先行きの中で、これからも経営を続けていく事が想像されます。廃業や事業の停止を検討している経営者も増えています。ただ、経営者にとって事業を停止する事や店舗を閉める事は大きな判断になります。親族や身近な商売仲間、付き合いのある税理士にも相談しにくい内容にもなります。ここでは廃業の方法、準備の仕方、そして社長個人の破産に比べてメリットもある経営者保証ガイドラインについても、経営者の視線から分かりやすく紹介致します。
Contents
廃業の方法について
廃業というと多くの方が思い浮かべるのが「倒産」という言葉ではないでしょうか。更に「倒産」から連想されるものとしては 厳しい取り立て、離婚、一家離散 といった言葉かもしれません。ただ、厳しい取り立ては法律で禁止されていますし、廃業や倒産をしても配偶者が経営に携わっていなければ基本的に関係がないので離婚する必要もありません。個人の資産についても自由財産として99万円までは現金で所有する事ができます。車なども状況によりますが、所有し続ける事も可能です。倒産という未知のものを必要以上に恐れる必要はありません。まずは廃業について知る事が経営者の次のステップや再チャレンジに繋がります。
経営が厳しくなった中小企業が取りうる廃業の方法には、下記のものがあります。
②私的整理
③破産
④民事再生
①通常清算
経営者が会社をたたむ事を決意して、営業終了日を決める事になります。金融機関に対する借入や取引先に対する買掛金、従業員の賃金・退職金、税金などを支払うべきものを全て支払った後に、株主総会で解散の決議と代表清算人の専任を行います。会社が債務超過でなく支払うべき債務の返済が可能であれば、裁判所を通す事なく会社をたたむ事が出来ます。この形で会社を閉じる事を通常清算と言います。
②私的整理
私的整理(任意整理)は言葉にあるように法的ではなく私的に債権=借金を整理する方法になります。債権者と債権について支払いの期間や方法について話し合いをして解決をはかっていくという手続きです。ただ、お金を貸している側としては「早く返してほしい」という気持ちが強いですし、お金を返す側は「無いものは無い、そこをなんとか」という事になります。当然、考え方は対立しますので、債権者との関係性が良好で、借入返済の根拠が明確にできる場合には有効な方法になります。
③破産
破産は私的整理とは違い、裁判所を通す法的な手続きになります。債務者が裁判所に破産手続き開始を申し立てる事によって、破産者の資産を債権者に公平に分配する手続きの事です。破産は債権者からも申し立てる事が出来ます。自ら申し立てる事を「自己破産」と言います。「破産をすると借金を返す必要がなくなる」などとネット広告で表記されている事もありますが、破産者の財産を処分しても払いきれない債務について、裁判所が免責をみとめた場合にはじめて「借金を返す必要がない」という状態になります。免責が認められない場合もあります。スムーズかつ適法に手続きを進める為には、早めに代理人の弁護士に依頼する事をお勧めします。
④民事再生
民事再生も裁判所を通す、法的な手続きになります。その言葉の通りに事業を再生していく為の手続きになります。破産は破産管財人が残った資産を債権者に公平に分配するだけなので、社長ができる事はありません。民事再生は再生債務者である社長が、代理人弁護士と共に会社を残していく為に事業に取りくんでいく事が大きな特徴です。また、裁判所に民事再生の申し立てをして受理されると申立より前の債権については一旦棚上げになります。「借金が棚上げになって、事業が続けられるのはメリットがある」と思う社長もいるかもしれませんが、裁判所が任命した監督委員と債権者に認めてもらえる再生計画案をまとめつつ、金融機関、取引先、顧客に説明をしていくというのは大変な作業になります。民事再生を申し立てした企業の全てが再生できるわけではなく、手続きの途中で破産してしまうケースもあります。また、裁判所に預ける予納金と弁護士費用も破産に比べると高額になります。法人の民事再生だけでなく、個人の民事再生も可能ですので、法人の手続きと合わせて、経営者が民事再生の手続きをとる事も出来ます。
経営者保証ガイドラインとは
経営している会社が破産した場合でも、自動的に社長自らも自己破産をしなければならない訳ではありません。ただ、多くの中小企業では、会社の借入に対して個人保証をつけている為、どうしても会社の破産=社長個人の破産という事になってしまうケースが依然として多いと言えます。そこで、法人と経営者の関係を明確に分離して、経営者の再チャレンジを促進する為に経営者保証ガイドラインが2013年12月に策定されました。経営者保証ガイドラインを活用した場合に、法人が破産しても、社長個人の信用情報が登録されず、自己破産よりも資産を残せる可能性があります。ただし、強制力の無い私的整理である為、債権者との調整に時間がかかり、成立しない場合も当然あります。
経営者保証ガイドラインの利用要件について
経営者が経営者保証ガイドラインを利用する際には、下記の要件を満たしている事が求められます。
(1)保証契約の主たる債務者が中小企業であること
(2)保証人が個人であり、主たる債務者である中小企業の経営者であること。ただし、以下に定める特別の事情がある場合又はこれに準じる場合については、このガイドラインの適用対象に含める。
① 実質的な経営権を有している者、営業許可名義人又は経営者の配偶者(当該経営者と共に当該事業に従事する配偶者に限る。)が保証人となる場合
② 経営者の健康上の理由のため、事業承継予定者が保証人となる場合
(3)主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること
(4)主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
(5)主たる債務者が破産手続、民事再生手続、会社更生手続若しくは特別清算手続(以下「法的債務整理手続」という。)の開始申立て又は利害関係のない中立かつ公正な第三者が関与する私的整理手続及びこれに準ずる手続(中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停等をいう。以下「準則型私的整理手続」という。)の申立てをこのガイドラインの利用と同時に現に行い、又は、これらの手続が係属し、若しくは既に終結していること
(6)主たる債務者の資産及び債務並びに保証人の資産及び保証債務の状況を総合的に考慮して、主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること
(7)保証人に破産法第252条第1項(第10号を除く。)に規定される免責不許可事由が生じておらず、そのおそれもないこと。
経営者保証ガイドラインの要件のポイント
上記に記載してある要件は法律的な言い回しで分かりにくい部分もありますが、中小企業の経営者がこのガイドラインを利用する際のポイントとしては、下記があります。
②破産した場合よりも多くの配当を出せる可能性がある事
③免責不許可事由が生じていない事
①経営者が弁済について誠実で、情報を適切に開示する事
経営者保証ガイドラインの利用に関しては、債権者への対応などをスピーディかつ正確に行う必要があります。提出する帳票などの数字が適切でなければ、債権者側の合意を獲得する事は出来ません。粉飾決算など不適切な会計処理を行っていて、悪質性のある場合は要件を満たさない事が懸念される為、注意が必要です。また、経営破綻が見えている状況で、親族などに資産を譲渡するといった詐害行為も誠実性を欠く行いと言えます。
②破産した場合よりも多くの配当を出せる可能性がある事
経営者保証ガイドラインの活用は債権者にとっての経済的合理性が求められます。弁済計画案を作って再生していく【再生型】、第二会社を作ってそこからの資金回収も行っていく【第二会社方式】、清算をしていく【清算型】といった複数の取り組み方がありますが、いずれの場合でも破産や将来の清算よりも債権者への配当が多くなる事が求められます。どの形で進めるのが会社と社長にとって最適なのかを慎重に検討する必要があります。
③免責不許可事由が生じていない事
破産をした場合には借入などの債務を支払う事が免責されますが、債権者にとって不合理な状況がある場合には免責が認められません。債権者に配当すべきお金を隠したり、他人に贈与してしまったり、個人的な旅行や飲食などで多額の資金を浪費してしまった場合などは免責を受ける事が出来なくなる可能性があります。また、経営破綻が見えていたにも関わらず、会社の口座から多額の資金を引き出して、ギャンブルなどに使ってしまったといった場合なども浪費にあたる為、免責が受けられない可能性があります。債権者にとって、「こんな事をされて債務が免除されてはたまらない」という事柄が免責不許可事由という事になります。
経営者保証ガイドラインの準備
経営者保証ガイドラインは破産で残せる99万円の自由財産とは別にインセンティブ資産として一定期間の生活費や華美でない自宅を残せるという意味で、経営者にとってメリットがあります。他方で、あくまでも債権者との協議をする私的整理である為に、合意形成に至らずうまくいかない可能性も充分にあります。資産の状況などを弁護士に適切に開示する必要があります。弁護士から「この書類をお願いします」と依頼された際に、「どこにあったかな?」といった事のないように事前に準備をしておく事をお勧めします。日弁連が公表している資産目録には下記の項目が記載されていますので、それぞれの項目について記載をしておくと、弁護士の手間が係らずに速やかに手続きを進める事ができます。
1 現金
2 預金
3 不動産
4 貸付金
5 保険
6 有価証券,ゴルフ会員権等
7 その他資産(貴金属,美術品等)
資産目録サンプル
預金については、普段あまり使っていない通帳もきちんと調べて漏れのないようにしておきましょう。不動産などについては、売買契約書の写しや固定資産税の支払いに関する書類なども準備をして、複数の不動産会社に現在の買取価格を出してもらう事をお勧めします。
その他資産に関しては、車や船舶などの動産も含まれます。こちらも事前に買取業者に依頼をして、現金化した場合にはいくらになるかを把握出来ていた方が望ましいです。
経営者保証ガイドラインの活用を含めて、廃業には思いの外、事業をしているときとは別の労力が必要になってきます。普段は従業員に気軽に依頼していた事も、全て自分で取り組まないといけない事が想定されます。資産の状況の出来る限り社長自身が知らないものがないようにしておく方が得策です。
まとめ 経営者保証ガイドラインの利用は準備と早めの支援者への相談が重要
経営者保証ガイドラインの活用については、必要としている要件を全て満たした上で、弁護士に適切に情報開示を行って債権者と同意を得る必要があります。破産のように弁護士に一任して後は何もしなくてよいとったものではありません。弁護士からのヒアリングに適切にこたえて、債権者からの信頼を獲得する必要がある為、ある意味で破産より難しい手続きであるともいえます。また、経営者保証ガイドラインを使った事のない弁護士もします。経験のある弁護士に手の打ちようのあるタイミングで相談する事が重要になってきます。どんなにいいアドバイスですがあったとしても、「時既に遅し、、、」となってしまっては後悔が残るだけになってしまいます。複数の選択肢の中から、自分にあった判断をする為にも良きタイミングで弁護士に相談する事をお勧めします。