倒産社長の末路は? 破産後の社長の生活は? 廃業経験者が解説
会社の倒産を社長が考える時に、まず頭に浮かんでくるのは「お客様はどうなる?」「従業員はどうなる?「取引先はどうなる?」「借入はどうなる?」といった事ではないでしょうか。
会社をとりまく関係者への対応は当然ですが、会社が倒産した時に社長個人はどうなるのかについて、廃業経験のある筆者の経験を踏まえた注意点を解説します。
Contents
会社が倒産した時に社長の資産はどうなるのか
社長が会社の債務の連帯保証人になっている場合、会社の倒産と同時に自己破産をすれば、債務を免れることができます。
多くの中小企業においては借入にあたって連帯保証を必要とするため、会社の倒産と社長個人の自己破産を同時に行うケースが多くなります。
法人のみ破産をして、社長が自己破産をしない場合、社長が連帯保証をしている債務については、引き続き支払い義務が残ってしまいます。
いっぽう、法人だけ破産をして、社長は「経営者保証ガイドライン」を活用して自己破産しない方法もあります。ただ、債権者の同意が必要な私的整理のため、利害調整に時間がかかり、あまり活用されていないのが事実です。
社長が自己破産すると、社長の財産はどうなるのか?
自己破産の申し立てをする事によって、社長が所有している資産は管財人の指示のもと処分される事になります。
しかし、全ての資産が処分されてしまうと社長個人の生活がたちゆかなくなってしまうため、一定の条件のもと、破産後に以下のような財産を所有する事が認められています。
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①99万円までの現金
②家財道具など
③破産の開始決定後に得た財産
④その他裁判所が認めた財産
当たり前のことですが、会社が倒産すればすれば役員報酬を得る事は出来なくなります。私の場合もそうでしたが、会社を畳むという負担の大きい手続きをしながら破産後の収入のめどを立てる事は、なかなか難しいのが事実です。
破産手続きに関わる弁護士は社長の次の仕事を用意してくれる訳ではありません。倒産を意識したら、「自分はどんな手段で収入を得る事ができるのか」の選択肢を考え、いくつか用意しておく必要があります。
社長が自己破産すると、自宅や不動産はどうなるのか?
中小企業の経営者のほとんどが、会社の債務に対して連帯保証をしているため、法人の破産はすなわち社長個人の自己破産となってしまうケースは多いです。
自己破産の手続きの中で、社長個人の自宅も処分せざるを得ない事もあります。
自宅をどうしても残したい場合は、自宅を時価相当の金額で親族や知人に買い取ってもらう任意売却なども考えられます。
いずれにしても、必ず自宅を残せるという訳ではありません。自宅を残す必要性をよく検討した上で、会社を畳む際の法的な手続きとの整合性を図る事が必要になります。
社長が自己破産した時に、車は残せるのか?
法人の破産に伴って社長個人も自己破産した場合に、所有している自動車を残せるのか?という問題があります。
社長が自己破産した場合は、社長の所有物である自動車は現金に換えて債権者への弁済にあてる事になります。但し、車の価値が20万以下の場合は、自由財産とみなされるため、手放す必要はありません。この場合、車のローンが残っていない事が条件になります。ローンがある車は、所有者が自己破産するとローン会社に没収される事になります。
また、社長が別法人で代表をしていて、その法人が所有している自動車は没収される事はありません。但し、別法人が連鎖倒産しない場合に限ります。
会社が倒産する事によって、社長のその後にどんな影響があるか
経営者に罰則はあるのか
倒産すると経営者に罰則があるのか?という疑問に対する答えは、NOです。
経営していた会社が倒産する事になっても、社長にペナルティーや罰則が科せられる事はありません。倒産しても、新たな法人の代表取締役に就任する事も出来ます。
ただ、信用情報機関に登録されるため、金融機関からの借入は難しくなります。いわゆるブラックリストには5年から10年登録されると言われています。
新会社が利益を生む体制が取れており、きれいな試算表があれば、日本政策金融公庫からの借入は倒産後5年程度で受けられたという事例があります。こちらは当社の廃業ストーリーを参照ください。
倒産すると家族への影響は?離婚しないといけない?
会社が倒産すると家族に何か影響があるかと言えば、経済的な面を除けばあまり影響がないというのが私個人の感想です。
配偶者が取締役に就任している場合は別ですが、そうでなければ会社の倒産が配偶者に影響を与える事は少ないと考えられます。「会社破産イコール一家離散」というのは前時代的なイメージで、会社が倒産しても離婚する必要は全くありません。
経営している会社を倒産させて、責任を感じて自殺をしてしまう経営者もいます。会社が倒産しても罰則がある訳ではないので、社長が自殺をする必要はありません。自殺は何の解決も生みません。
自己破産をした後に社長はどう生活をしていくのか
自己破産をした社長は、役員報酬などの収入を失う事になります。
会社の破産手続きには6か月以上の時間がかかります。負債総額が多く、債権者の数も多い場合は、1年以上かかる事も少なくありません。裁判手続きの期間が終わっても、その後の会社の解散・清算にも時間がかかります。このような長い期間、誰かが社長の給与を払ってくれるわけではありません。破産を少しでも意識し始めたら、破産後の生活をどうるすのか、準備しておく必要があります。
破倒産経験のある元社長の再就職
倒産を考えている経営者の中には「会社をたたんだら、就職をすればいい」と楽観的に考えている方もいるかと思います。しかし、中高年の再就職活動において、倒産経験のある社長という肩書はネガティブに捉えられてしまう事が多いのが現実です。
就職活動の面接では、「○○社を退職した理由は?」と聞かれる事が一般的です。同様に、倒産した社長に対しては「なぜ、会社を倒産させたのですか?」という質問を投げかけられる事になります。
倒産にいたるプロセスでは、社会環境、社内のリソース、従業員の問題、ビジネスモデルなど様々の要因が関わっており、最終的に非常に苦しい選択として経営者は倒産を選ぶ事になります。こうした複雑な出来事を、短い採用面接の時間で、サラリーマンである面接官に納得してもらう事は非常に難しいと言えます。倒産経験を合理的に語る事は困難です。そのため、面接において倒産経験をポジティブなものとして理解してもらうことは非常に困難だと言えるでしょう。また、倒産経験を正直に履歴書に記載した場合の、書類通過の確率は非常に低いのも事実です。破産者に対する世間の目は厳しいものがある事を理解しておいた方がよいでしょう。
倒産した社長が就職活動をしてみたら
倒産した社長が就職以外の方法で収入を得るには
倒産した社長が収入を得ていく為の選択肢としては、以下が考えられます。
・アルバイトをする
・正社員として就職する
・知り合いに仕事をまわしてもらう
・プロ人材マッチングサイトで仕事を獲得する
・ギグワークで働く
破産した社長がするアルバイト
ディップ社の発表によれば、2021年4月時点のアルバイトの平均時給は、1,111円です。アルバイト求人媒体を見れば、自分の年齢で応募できる業種がどんなものかという傾向が把握できます。中高年の求職者も積極的に募集している仕事として多いのは、コンビニエンスストア、軽作業、清掃業などに限られているのが現実です。
経営者は面接をして雇用する側の立場だったため、履歴書を書くのも久しぶりな方も多いでしょうが、どんな仕事に就くにしても履歴書を書いて応募するというプロセスは必要になってくるので、練習と捉えて取り組んでみるとよいでしょう。
ディップ株式会社(以下「当社」)は、2021年4月のアルバイト時給データを発表しました。本調査は、アルバイト・パート求人情報サイト「バイトル」に掲載された求人広告データをもとに集計したものです。4月のアルバイト平均時給は、1,111円(前月比44円減、前年比26円増)となりました。「バイトル」に掲載されたアルバイト・パート求人件数は約181,000件で、前月比1.1%増、前年比11.6%減となりました。
出典: prtimes.jp
倒産した社長が正社員として働く
破産を経験した社長が正社員として就職するのは思いのほかハードルが高いのが現実です。履歴書の職歴欄に「株式会社○○○ 破産」といった記述があると、面接官にとってはネガティブなキャリアとして記憶されてしまうのが現実です。
コロナウィルスの影響によって幅広い業種において中高年のリストラが行われている中で、企業の中途採用の門戸は非常に狭くなっていると言えます。コロナ禍で採用活動をする企業側からすると「就業中の企業で手放したくない、キャリア抜群の人材」を求めているはずです。
そうした前提からすると「破産経験のある中高年の応募者は魅力的には見られない」という現実をしっかりと認識した上で、応募をする必要があります。書類選考をほとんど通過しない前提で、強い気持をもって求職活動をする必要があります。
また、採用する企業からすると、キャリアや経験は充分だったとしても「廃業経験のある元社長が会社になじむだろうか」という疑念もつきまといます。採用の現場で最近よく”カルチャーフィット”という言葉が語られますが、廃業経験者、元社長という人材は、いわゆる“カルチャーフィット”しないタイプの人材と見なされてしまいがちである事も、現実としてあります。
破産後に知人・仲間に仕事をまわしてもらう
自分で手や体を動かせる現役世代の元社長であれば、知り合いや仲間に仕事をまわしてもらう事が、収入を得る手段として現実的な選択になります。
社長になる過程で、プレーヤーとして現場を経験した上で独立起業した方も多いのではないでしょうか。工事会社の元社長が現場の請負仕事を仲間の社長にまわしてもらうというケースや、エンジニアから起業した元社長が、同様に案件を受託して仕事をするというケースなどが想定されます。
元社長の経験や以前の仕事ぶりを理解している社長仲間や業界内の知人がいれば。「困っているなら、仕事をあげよう」という事になる可能性は高いといえます。現場で仕事をしていた感覚を持ち続けている方であれば、スムーズに収入の手段を得る目途が立ちやすいでしょう。
プロ人材マッチングサイトで仕事を獲得する
近年、フリーランスのプロ人材と企業をマッチングするWEBサービスが多数登場しています。
エンジニアリング・営業・マーケティング・広報・採用などの職種で、正社員として採用するにはハードルが高いが、スポット的にプロフェッショナルな人材を活用したいという企業側のニーズと求職者を結びつけるサービスで、WEBサイトやアプリから利用できます。
「キャリーミー」、「Waris」、「サーキュレーション」などの大手サービスが多数存在するほか、IT/マーケティング/人事など特定のスキルに特化したマッチングサービスもあります。
仕事の流れとしては、マッチングサービス会社との間で業務委託契約を締結し、取引としては、マッチングサービス会社を介してクライアント企業の案件を受託していく流れになります。そのため、仕事の報告や請求をマッチングサービス会社に対して行います。まずは、サイトをいくつかみて、自分の経験やスキルがマッチしている案件があるか確認してみるのが良いでしょう。
倒産社長がギグワークで働く
UberEats配達員などのギグワークで収入を得ている人も増えています。
ギグワークとは、継続した雇用契約ではない、短期間の働き方の事を言います。業務委託契約を結んで、働いた分だけ収入を得る形です。UberEats配達員のように、働いた時間だけ報酬を得る形になるため、決められた就労時間などは無く、自分の裁量で働けるという点では社長業をやっていた方にもなじみやすいと言えます。初心者であっても気軽に始める事ができて、手軽に収入を得られる事がメリットです。
デメリットとしては、単純労働が多く、時給単価でみるとさほど高くないのが現実です。また、雇用関係にはないので、何かトラブルがあった際には、全て自己責任になります。とはいえ、「ココナラ」のように、単純労働だけでないスキルシェア型のプラットフォームもあるので、そうしたサービスを調べて自分の経験を活かせそうな仕事があるか探してみるのも一つの方法です。
倒産社長の末路は明るいか? まとめ
一口に倒産社長といっても、今までしてきた仕事や経験は様々です。会社の経営が危うくなり、倒産が現実的になってきた場合、何らかの形で収入の糧を見つけなければ、生活がすぐに破綻してしまいます。アルバイトで働く、正社員として働く、仲間に仕事を回してもらう、マッチングサイトで仕事を探す、ギグワークで働く、全ての可能性を検討して自分に合った収入の獲得方法を模索する必要があります。
破産の手続きが完全に終わってから収入を得る手段を探すのでは、遅きに失する事が多いため、倒産の可能性が少しでもあがってきた際には「どのように自分の収入を確保するのか」「何と何を組み合わせて合計いくらを毎月稼ぐのか」を事前に計算しておくことが、倒産の手続きをしていく上でも安心です。
また、役員報酬以外に収入を得る手段を持っていることは廃業の手続きを進める上で強みになってきます。収入の軸を複数持つことは、ビジネスの手じまいをする際にも、経営者の生き残りの大きな要素になる事を意識しておいた方がよいでしょう。
倒産後の社長の未来を明るくするためには、役員報酬以外の収入の獲得方法をいくつ組み合わせられるかにかかっています。
- 著者プロフィール
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1972年、長野県長野市出身。京都精華大学卒業後、TV番組制作会社で構成作家として活動。2007年、株式会JAMMUを設立。デジタルサイネージに関する専門コンサルとして、同業界に関する調査・コンサルティング業務を行う。2017年、経営者として10年間の経験を経て、地場工務店をM&Aにより取得。売上はアップさせるものの、コスト管理の失敗などにより経営不振に陥り、民事再生の手続をとり廃業。複数の事業の立ち上げ及び撤退という経験を踏まえ、『前向きな廃業を増やし、再チャレンジしやすい社会環境を作る』をミッションに株式会社リスタートスタイル「廃業支援センター」を設立(202年2月)。2020年度 東京都リスタート・アントレプレナー支援事業アクセラレーションプログラム採択者