廃業ストーリー

廃業からのリスタート 33日間のネットカフェ生活と私の人生を変えたひと言

竹越さん

廃業支援センターでは、事業の中でつまずいてしまい廃業や倒産という経験を経た上で再起をした経営者”リスタート・アントレプレナー”にインタビューを行っていきます。どんな経緯で事業を閉じる事になったのか?そこからどのようにして再び事業を始める事になったのか?についてその人それぞれの「廃業ストーリー」をお聞きしていきます。初回は飲食業の廃業経験を経て、現在は不動産事業を展開する竹越達哉さんにお話を伺いました。


インタビュー 廃業支援センター編集長

飲食店を数十店に増やすも、東日本大震災により工場が被災

———どんな商売をされていましたか?

ラーメン屋さんやバーなどの飲食業を数十店規模でやっていました。出店や閉店などもありましたが、やっていたブランドのトータルは23になります。

———かなりの規模で展開されいていたんですね、ダウントレンドになってしまったきっかけは何かあったのでしょうか?

一番は東日本大震災ですね。
工場を持っていたんですが、震災で使えなくなってしまって、負債を抱えてしまいました。特にラーメン事業に関しては工場が稼働できなくなってしまって仕入れのコストが上がってしまったので、売上が65%くらい落ちてしまいました。そこで、ラーメン事業は切り離して、バー事業の売上で原状復帰しようとしたのですが、売上を取り戻す事は出来ませんでした。
借入のリスケが終わってしまう時期に、元金の支払いが難しくなってしまったのと体調を崩してしまったのが大きな原因で廃業に至りました。

———廃業の手続きはどんな手続きをとったのでしょうか?

破産の手続きになります。地元の先輩が私の窮状を見て「もう頑張ったから、いいんじゃねえか?」と言って頂いて、その方に弁護士の先生を紹介してもらいました。週一で先生と打ち合わせをして、書類の見直しなどに取り組みました。

———破産の手続きの中で印象深い事はありますか?

破産手続きを終わるまでの6か月の間に社員が全員退職をしていましました。
事務関係や経理関係を社員に任せていたので、自分が把握出来ていない事がありました。弁護士から質問されても分からない事が多かったです。倒産という札がついてしまったことで、社内の人間関係が終わってしまって、スタッフがいなくなった中で全てを自分でやらなければならないことが一番大変でした。全部目を通してはいたのですが、把握できていない事もありました。弁護士に「これは何ですか?」と聞かれた時に回答ができるものと、回答ができないものがありました。

———その時に支えになってくれた人はいましたでしょうか?

支えてくれた人というか、「店舗を守ってくれた店長や社員さんを路頭に迷わせてはいけない」という責任感、そこだけが支えになりました。最終決断として自分は離れてしまうが、生活のかかっている社員と、お客様に喜ばれていた店舗を何も変わらないようにしてあげたかったという気持ちが強かったです。
破産と同時に賃貸借契約の解除をし、店長さんが新たに賃貸借契約を巻き直すことをお手伝いしました。

店長をしていた従業員を破産後に経営者にするために奔走

———店長さんが経営者になったということですか?

はい、9人が経営者になり、18人が社員さんとして生計をたてられるようになりました。

———素晴らしいですね。調子がいい時は見える事もあれば見えなくなってしまう事もありますよね。「敗軍の将、兵を語る」的に言うと、廃業を決断する中で何が失敗だったのでしょうか?

良かった時とか悪かった時とかあまり考えたことはなかったです。
私の経営スタンスが「人のため」だったんですね。元々やっていたバーのお客様が、働く場所がなくなったり、40代の女性が働く場所がここしかないっていう人達の生活を守りたくて拡大志向になりました。
人って能力がついてくると、やる場所を求めてくるんですね。店舗を欲しい、店長になりたいというアグレッシブな従業員さんが多かったんです。そのやる気に期待したので、店舗拡大のスピードを上げました。6年ぐらいで10店舗ぐらいまで店舗を増やす事ができました。
通常は1店舗あたりの借りたお金に対する返済が進んで、見通しが立ってから次という事なんでしょうけれど、その前に人の成長があったのでそれを待たずに、次の店舗展開を進めていきました。振り返ればそこが一番経営としてのミスでした。会社が理念に基づいて出店して経営するべきだったのですが、私は人のやる気に期待して、その人にやる場所を与える事でお客様を幸せにできると勘違いをしていました。

———そこに自分のストーリーを作ってしまったということでしょうか?

そうですね。そういう人間関係を築いている社員さんばっかりだったので、期待から店舗を拡大する志向になったことが、回りから見るとスピード感があって店舗展開しているなとみられていたのが良い時期、逆に言うとそこからが始まりだったのかなと思っています。

33日間のネットカフェ生活で自分に向き合い 何を大切にすべきか考える

———そうした苦しい経験からどのように立ち上がってきたのでしょうか?

廃業の手続きが全部終わって、ゼロスタートになりました。その時に失ったものが、飲食での15年間の経験がゼロになるということ。そして病気を抱えてしまい、健康でなくなったこと。さらに家族を失いました。これからどんな事が起こるか分からないので妻が籍を抜いてほしいということで、籍を抜きました。
これから自分がしないければいけない事は家族を守ることだと思ったので、家族を追いかけて鹿児島までいきました。ただ、行ったのですが、家族としては再スタートが出来ないと思えたので、養育費を払う事に着眼して仕事を探すことにしました。その時に家族の近場にいた方がいいと思ったので、福岡で仕事を探すことにしました。
最初はホテル暮らしをしたのですが、持っているお金が底をついてネットカフェ難民になりました。ネットカフェで33日間泊まり込みながら、再就職先への履歴書を書く毎日を送りました。20社以上履歴書を送りました。普通の履歴書ではなくて、白いところがなくなるくらい自分の思いを詰め込んだ履歴書を送り続けました。
その中でリノベーション事業に取り組む1社が思いを汲んでくれて、採用に至りました。ただ、他の19社と違うのは、飲食業を破産させた廃業の経験がある事を隠して書いた履歴書だったんですね。19社は正直に書いたのですが、これが世の中の評価なんだなと思いました。竹越っていう人間がどうかということではなく、失敗したという経験のあるダメな人という見方があることに改めで気づきました。家族の為にも、働かないといけないということがあり、自分の中で初めてついた大きな嘘でした。その嘘のお陰で、採用枠の中に入れたわけでですが、そこからが甘くなかったです。

「失敗したことを失敗したと言っていいんやで!」

———どんな事があったんですか?

採用が決まった時に全ての事実を社長が知ってしまいました。その後に「正直、全部話してほしいんだけど」と言われました。その社長が「全部知ってるから、隠さんでええで」と言ってくれたお陰で、それまで話せなかった自分の真実を涙ながらに語りました。そのタイミングで自分の人生のリセットボタンを押させてもらえたなと思っています。

———それが竹越さんのターニングポイントになったわけですね。

そこで、その社長が「失敗したことを失敗したと言っていいんやで!」と言ってくれたこと。自己開示をして人生を生きていいんだなと気づかせてもらいました。

———受け止めてくれる人がそこに初めていたということですね。

今から思えば、もし履歴書を送った19社の中でどこかに採用されていたら、自分の廃業経験を汚点として過ごしてしまったのかなと。オープンマインドのきっかけを頂いたのが、その社長の言葉でしたね。

———その会社ではどんな仕事をしていたのですか?

福岡店の採用だったんですが、そのまますぐに東京勤務になりました。そこで営業の仕事に従事させて頂きました。
社内資格が3つあって、それを1か月以内に取得しないと本採用にはなりませんよという条件でした。その会社の中で1ヵ月でその資格を取った人はいないということで、かなりハードルは高いと聞かされていました。今までやってきた銀行員・飲食業の経験しかなかったので、建築の仕事は本当に未経験でした。専門用語、業者さんとの関係構築、発注のフローから、顧客志向の考え方まで担当の上司がつきっきりで教えてくれました。資格を取るためのロープレを深夜までつきあってくれたお陰で、入社が6月で、1か月でその資格を取得する事ができました。
特例で、その資格を取る前から接客を担当させて頂いていて、入社1週間目で1件目の成約が決まりました。お客様との案件が進むことで、自分の中でも自信が生まれてきました。また、その会社の商品力に惚れこんでいました。リノベーション+中古マンションという物件購入の仕方が当たり前になっていくようにしたいなと思っていました。

自分を幸せにしようと思えた事が新たなスタートのきっかけに

———リノベーションが認知される過程の、よい時期にその会社にジョインできたという事ですね。

はい。なんでその会社を選んだのか、嘘までついて入りたかったのかというと、33日間のネットカフェ経験で、人生で初めて将来のことをゆっくり考える時間をつくることが出来たからなんですね。
経営者をしていると、今月の支払い、目の前にいる社員の悩み、事業計画などに向き合っていくことになります。立ち止まることが出来ずに、動きながら考えていくわけです。結局、改善と行動の二つしかできなくて、思考ができなかったです。こういう事がしたいという、自分を見つめなおす時間が全く取れなかったですね。
自分に向き合う時間を取れたということが、ネット難民をしていた時に得た最大の財産ですね。42年間走ってきた内容を全部振り返って、自分がこれから先の人生を誰のために使って、誰を幸せにすればいいのかを考えました。その時初めて、自分を幸せにしようと思いました。自分が一番幸せになる仕事をしたいと思った時に、お店を出店する時の準備や計画、そして開店日がすごく楽しかったことに気付きました。

———お店をオープンするということが好きなことに気づいたと。

空間作りがこんなに好きなんだということを再認識しました。
一番失敗したくない人に私の経験を伝える事で「竹越さん、ありがとう!」と言ってもらえる仕事がなんだろうと考えたときに、「これは住宅だ!」とピンときました。
起業して、それをクローズした人間からすると、今は人をまとめて事業をすることはできない。ただ、目の前にいるお客様の家づくりの悩みに寄り添っていくことで、その人が間違えそうになった時に「そっちにいっちゃダメだよ」と言ってあげることでその人を幸せにすることはできるのではと思ったんですね。失敗経験がある私がアドバイスしたり、35年間かかる住宅ローンのプレッシャーに負けないワクワクした生活を提案することができるのではと考えました。

———だから一生の買い物である住宅の業界を選んだということですね。

その中で、古くて良い物件で価値が高いのに、駅から近くて便利っていう物件を買えない理由が「その物件の不安を解消できないからだ」ということに気づきました。人口減少する中で、中古マンションが空洞化してはいけない。社会貢献するためにも、古いものをリスタートするような仕事をしたかったので、リノベーションの仕事に取組みました。

———最初のリノベーション会社を経て、次の会社に移ったとの事ですが。そこではどんな仕事をされたのでしょうか?

リノベーション会社での仕事は順調で、業者さんの担当である新規事業を上長と一緒につくりました。そこで不動産業者との関係性が出来ました。リノベーションする人達のボトルネックになっているのは、リノベーション向き物件の目利きが出来る人が圧倒的に少ないということでした。そこでリノベーション会社は退職させて頂いて、リノベーション会社に良い物件をパスできる専門家になろうと思いました。そこで、港区にある不動産会社に入って、修行させてもらいました。

———そこでの学びはどんなものがありましたか?

一番大きいのは、社長が民法に詳しく、重要事項説明の書類や準備資料に関する細かなアドバイスを多く頂けたことでした。不動産の場合はクレーム産業の側面があるので、悲観的な準備の大切さを学びました。そこでは、リノベーションされるお客様への物件探しを担当しました。

不動産会社での修行を経て、再起業にチャレンジ

———その会社にいる際に、宅建も取得されたんですね?

はい、その不動産会社の社長が宅建の5問免除の講師もされていて、業務の空いている時間は宅建の勉強をさせて頂きました。宅建に関しては実質の勉強期間が4か月でしたが、たまたま一発で合格することができました。非常に短期間でノウハウが頭に入ったのも良かったです。

———その不動産会社での修行の後は、どうされたのでしょうか?

その会社では4年間お世話になりました。その会社では業務委託の契約で、毎年更新が4月でした。更新について相談したところ、社長から「機は熟したんじゃないか。応援するよ」と独立を促してもらって、独立を決意しました。

———新たに設立した会社ではどんな事業に取り組んでいますか?

今まではリノベーション物件の専門ということを口頭でお伝えするだけでした。新会社ではリノベーション物件の仲介専門会社としてスタートしました。古くても見極めが出来たいい物件を、リノベーション物件に換えたかったので社名をオールド不動産としました。

リノベーション物件
お客様の要望に徹底的に向き合い最適な物件を紹介
———事業はどんな状況でしょうか?

私たちの場合、不動産業では特殊な形で、自社集客はゼロで広告宣伝費もゼロなんですね。
普通の会社の場合、人件費・家賃・広告宣伝費という経費がかかってきます。不動産会社の持つ固定費を最大限下げる事によって、お客様に対して価値を提供する事を考えています。固定費があると、毎月何本獲得しないといけないという目標が必要になってきます。当社は固定費が無い分、目標設定が無い分、お客様に寄り添うことができます。その分、リードタイムは長くなりますが、3ヵ月くらいお客様の物件探しに徹底的にお付き合いしていきます。

徹底的にお客様に向き合い、最適な物件の紹介につなげる

———3ヵ月は通常に比べると長いのでしょうか?

長いと思います。朝から晩までレインズを見たり、知り合いのの業者さんに連絡したりという草の根活動をやっていきます。そこで得た情報を詳細に精査して、お客様の前にはこれを買っても大丈夫だという物件を提案します。「当てずっぽうな物件を提案していない」ということでお客様からの信頼獲得につながっています。

———その人に合った、選りすぐりな物件の提案をしているということですね。

逆に言うと、リノベーション物件ってそれぐらいやらないとダメなんですね。販売図面を見てもくたびれた写真が掲載されていたりするので、お客様も「これを買ってすぐに」というイメージにはなりづらいんですね。これを壊して、内装を変えて、あなたの困っている生活をこうゆう風に変えていくということをイメージ出来ないと、一歩前に進めないんですね。イメージを鮮明にできるかどうかが大事な仕事になります。

リノベーションで新しい顧客層へアプローチ

———新しい取り組みもされているということですが、どんな内容になりますでしょうか?

はい。時代の流れの中で、商品パッケージは増やした方がいいと思っています。今まではお客様の総額予算が4,000万の中で、3,000万を物件費用にして1,000万でリノベーションをすることが多かったです。この方たちの場合は、そこに至った経緯として「家賃がもったいない」「更新がある」「子供が増えて手狭になった」という理由があります。今、お陰様で頂くオーダーの中で、その層ではない方がいらっしゃいます。コロナ禍で家の中にいる比重が高くなって、家での生活を満足させることを考える方が増えています。日当たり・通風・眺望・虫がいない・しかも割と広めな間取りという条件を満たすタワーマンションでリノベーションをやりたい人達が増えてきています。タワーマンション+リノベーションというブランドを作り始めています。

———最近はアーティスト活動を始めたと聞いていますが、これはどんな事に取り組んでいるのでしょうか?
turnart
竹越さんが制作されるturnart作品

 

中古マンションでリノベーションをすると、物件探しに3ヵ月、プランが1か月、施工に2か月、最低でも6か月お客様と密に連絡を取り合う関係が続きます。そうすると仕事以外の話も入ってくるようになります。ご夫婦の話や子供に対する夢やご両親のお話、生い立ちなど色々とお聞かせ頂くと、こちらも感情移入しちゃう訳ですね。
僕らは仲介手数料という収益を頂くのですが、そのお礼をする時にプレゼントを大切にしていたんですね。その人が喜んでくれるプレゼントを探すのが、なかなか難しかったということがありました。ただ、作っていく家を見たときにここの壁にこんな絵があったらいいなと思うようになりました。引き渡しの当日にお伺いすると「この家にアートがあれば、もっとかっこよくなるな」と。
今まで自分の描いた絵をお家に飾っている人を見たことがないんですね。アートもDIYの時代の1ページになっているんだろうなと考えていました。そんなことをお客様に伝えると「やった事ないし」「センスも無いし」「部屋も汚れるし」という言葉をもらいました。部屋が汚れるからやらないんだったら、汚してもいい僕の部屋でやってもらったらいいなと。また、僕が作れるようになれば、引き渡し日に、お客様の好きな色を入れたアートをプレゼントできたら素敵だな、家探しをした僕だからこそできるアート作品があるんじゃないかということで製作を始めました。

破産から6年で金融機関からの借入が可能に

———破産してからどれくらいの期間で借入ができるようになったか教えてもらえますでしょうか?また、最後にリスタートをする人へのメッセージを頂けますでしょうか?

法人・個人の破産は2014年3月なんですね。まだ、個人の方はカードも作れない状況です。賃貸借契約もまだ落ちるところもあります。まだ個人の信用は回復できていないんですけど、会社の方は2020年の4月に保証協会付の融資と政策金融公庫の融資が通りました。

———法人の方はちょうど6年で信用が回復できたという事ですね。この事実はこれからリスタートを考える経営者の方に勇気を与える事実ですね。

リスタートをする人達へのメッセージとしては、僕もそうだったんですが、早い方が良かったなと思っています。
実は震災が起きてから、弁護士の先生のところに相談に行くまでの3年間は寝る間も惜しんで働いていました。昼間はラーメン屋さんに入って、夜はバーに入って数時間だけ寝る生活をしていました。結局、体を壊して家族が離れていってしまいました。自分が引き起こした事だったので、優先順位が「お金を返す」「社員の信用を失わない」「取引先の信頼を失わない」と仕事だけになってしまいました。
今振り返ると、震災が起こってすぐに決断していたら、体を壊していなかったなと。もう少し早くリスタートも出来たかなと思っています。恐れずに早めの判断が大切ですね。廃業や清算への取り組みは大変なんですけど、僕が良かったのは33日間ネットカフェで自分の将来のことをとことん考えて、自分に向き合うことが出来ました。再スタートをする時に、自分は何者なのか、自分は今度どのように生きたら後悔しないのか、そこに徹底的に向き合って、自分の内なる声と会話していくことがすごく大事だと思います。

———自分に向き合って振り返る時間が必要だと。

本当に僕が感謝しているのが、リノベーション会社の社長が「オープンマインドでいこうや!」と言ってくれた事ですね。隠す失敗ではななくて、人に語って伝えていくことが勇気を与えたり、財産になるんだなって思いましたね。

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