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スモールM&A、個人M&Aの原状と課題 公認会計士 小木曽正人先生インタビュー(後半)

スモールM&A

廃業支援センターインタビュー今回は株式評価の専門家である小木曽先生にお話をお聞きしました。後半は、スモールM&Aや個人によるM&Aにおける引継ぎの期間や買収後の経営スタイルの変更というテーマでお話頂きました。

—事業承継においては引継ぎの期間をどれくらい取るのかという問題もありますが、小木曽先生はどうお考えでしょうか?私も引継ぎの期間として3年から5年を想定していましたが、個人的には失敗だったと思っています。

買い手は皆さん長く設定したがりますが、私は短い方がよいと考えています。「この人が無くなると仕事が成り立たない」という話がよくありますね。その側面は一時的にはあるかもしれません。ただ、たいがい辞めてもなんとかなっているんですね。これは社長も同じではないかと近頃は思っています。綺麗に時間をかけて事業承継しようとしている会社よりも、お父さんが急に亡くなって息子が継がないといけなくなった場合の方が大変ではありながらもうまくいっているケースが以外とあるんですね。背水の陣を引いてやっているので。徐々に行う事業承継は親族でも難しいです。親族内の事業承継は上の方の覚悟だと思っています。上の人がどれだけ口を出さないという覚悟をしてくれるのかという事にかかっています。

—普通、口は出してしまいますね(笑)

長い引継ぎは引継ぎにならない。前社長の影響力が承継のネックに
近頃、事業承継をお手伝いしている際は、上の人が口を出さないようにする準備期間に注視しています。スモールM%A買手は3ヵ月から半年の引継ぎ期間で引き継がないといけないと捉える方が良いと考えています。親族内承継も一緒ですが、長ければ長い程日引き継がないですね。お客様廻りをするぐらいで、引き継ぎが実質進まない事になります。
結局、引継ぎ期間が長い程、前社長が影響力を持ち続けます。M&Aも同様で、技術的な引継ぎのみ行って経営に関しては3ヵ月で引き継いでしまうというくらいが良いと思います。技術的な部分に関してはアドバイザーとして残ってもらう方がベターではないでしょうか。こうした短い期間での引継ぎを行うには、本人が行くか会社のスタッフに行ってもらうしかないですね。

—M&Aを済ませてリタイアした気持ちの前経営者が会社に残っていると、当然口出しはしたくなりますね(笑)

親族内承継でもそうなんですが、前経営者が残っていて毎日出社していると社員の目は前経営者に向いてしまいます。引き継いだ社長が、前経営者の顔色を窺うという事もおきます。「もう来なくていいです」と言って、前経営者は週1、2日の出勤にしてもらうという判断も必要です。影響力を持つ前経営者が残っていると、誰に聞いていいのかという事で社内が混乱に生れがちです。

—引継ぎ期間はコンパクトにした方がいいという事ですね。

買い手がどう思うのかは別にして、私は短い方がよいと考えています。技術というものを除くとさほど引き継ぐものがあるのかというの事が私の個人的な意見です。売り手側としては引継ぎ期間は短くていいという考えの方が多いです。他方、受けて側は大変だと思っていますのでギャップがありますね。

—引き付きの期間と、前経営者のマインドセットの問題が出ましたが、それ以外に事業を承継する上で注意するポイントはありますでしょうか?

前経営者の経営スタイルから変更する事を前提にM&Aを考える


どういうスタイルで経営するかに関わってきますね。以前の経営と色を変えずに行うのか、色変えているのでは自ずとスタンスは変わっていきます。同じ色の経営を引き継ぐのであれば、基本的に同じ収益性は保たれます。以前の経営の色を踏襲しないとなると、当然ハレーションは生まれてきます。利益が充分に出ていて実施されるスモールM&Aは少ないように思うので、変化させていかないと事業がシュリンクしてしまいます。

—変えていく前提でM&Aを行う方が良い結果を生む可能性が高いという事でしょうか?

絶好調のタイミングで案件化する事はスモールM&Aだとほとんど無いのです。だいたい経営が苦しくなってから売りに出すので、買い手側からすると当然立て直しが必要になってきます。起こりうるハレーションに対して覚悟を持ってM&Aに取り組む事が必要になります。何も変えなくて、自走式で収益が残っていくという事はまずないです。そうしたビジネスの売値は当然高くなります。小規模事業者や個人が会社を買うのであれば、出来るだけリーズナブルな価格で買って、資金は買った後の投資にまわしていくべきですね。買うのに精いっぱいだと苦しくなります。

—買った後の投資をしっかりとイメージしないと、引継ぎ後が苦しくなるという事ですね。想定外のお金がかかってくる事もありますね。

当然ありますね。その点でも、買う時はシビアに買わないといけないです。自分が思った金額で買えないなら、スパッと諦めるというスタンスも必要です。

スモールM&Aでの株式評価は論理的でない側面を理解する

—シビアに見るという事は小木曽先生の専門である株式評価にもつながってきますね。売り手からすれば自分の手塩にかけた会社を高く評価して欲しいという気持ちがあり、買い手からすると手金は出来るだけ出したくないという気持ちがあって中々会いまみえないのがM&Aだと思うのですが、スモールM&Aにおける株式評価はどのようなものになっていますでしょうか?

正直言えばスモールM&Aになればなるほど論理的ではなくなってくると思います。評価手法がスモールM&Aになったとたん当てはまらない部分が出てきます。基本的に売り手が言っている価格は高いという認識が必要になります。同業の案件と比べてみて割安かそうでないかとう判断がいりますね。また、割安であればそこに何かがあるので、そこを見極める事も大切になります。アドバイザーを付けずに個人でするとその見極めは難しい側面はあります。業界に関する経験があれば良いのですが、新規の領域であればその業界・業種のビジネスリスクをどうとらえていくかという事になります。単体で株式評価をして「感覚的には高いと思う」という判断を私がしたとしても、既存事業とのシナジーがあれば評価は変わってきます。なぜその会社を買うのか、何の目的でその会社を買うのかという整理が大切になってきます。

—M&Aのリスクに向き合うとき「なぜ自分はこの会社を買うのか」という事に真摯に向き合わないといけないという事ですね。

そうですね。その意味でも個人や中小企業でM&Aを考える方は勉強しないといけないと思います。M&Aに関する勉強というよりは投資に関する事ですね。

—-スモールM&Aでは戸建て住宅の投資くらいの金額で買える案件もありますが、不動産投資のような感覚で考えると、リスクが高いものだという認識が必要ですね。

自己資金でするのであればまだしも、借入でM&Aをする場合は収支をみていかないといけないですね。個人のM&Aは難しい面がありますが、中小企業で若手の経営者の中には、リスクを見極めた上で既存事業とのシナジーを見据えてスモールM&Aで成功している方もはいらっしゃいますね。

—ある程度組織があって、M&Aを受け入れられる素地がある成功する可能性が高まるという事でしょうか?そう考えると個人がする場合は身一つで手金だけというのはリスクが高いという事ですね。

そうですね。ただ、一からビジネスを立ち上げる事を考えると、時間を買えるM&Aのメリットもあります。何と比較してのリスクという事ですね。

スモールM&Aで大切な3つのポイント

—今までのお話の中で「引継ぎの期間を短くする」「投資に関する勉強をする」「リスクとメリットを判断する」という事が出てきましたが他に注意する点はありますでしょうか?

付け加えるとすると「何を買うか特定する」という事があげられます。買収企業の借入金は買った人が返済しないといけない訳ですが、代表者保証という重みをちゃんと理解していないケースもありますね。事業の価値が2000万として借入が2000万あれば、株式価値は0円なわけですね。それを2000万で買おうとする方もいます。

スモールM&Aにおける撤退戦略


—事業を買う上で撤退戦略も必要だと思うのですが、小木曽先生はどうとらえていますでしょうか?

ざっくりでもいいので、どのタイミングで損切りをするのかは決めておいた方がいいですね。それが無いままだとマイナスが膨れ上がってしまう可能性があります。新たな借入も返せる目途があればいいのですが、、、現金と借入金をどうバランスして経営の設計をする事が大切です。借入金1000万で現金100万円の会社と、借入金が2000万で原因が1100万の会社があるとすると、金融機関が安心するのは手元に現金のある後者になります。現金を手元において、それをいかに増やしていくかというのがスモールビジネスの分かり易さだと思います。ここより下げてはいけないという現金残高のデットラインを見極めていくのがシンプルな方法ですね。細かな科目がどうこうより、どれだか支出があってどれだけ入金があるのかをきちんと見ていく事ですね。指標はシンプルがいいですね。

—小木曽先生が関わりだした当時から比べると大きく変化があったM&Aの業界ですが、他に気付く点はありますでしょうか。

プレーヤーの数は増加したが成長市場ゆえの課題も
アドバイザーとして雑多なプレーヤーが増えた印象があります。中小企業庁のM&A支援機関登録制度が出ましたが登録件数は2000件を超えています。その中できちんとM&Aが出来るとところは1割いないのではという話を先日させて頂きました。一番育っていないのがアドバイザーです。売り手のアドバイザーとしてどう値決めをしているのか、疑問に感じる事もあります。これだけの金額で売れると思っていた売り手さんが、オファーリングを聞いたら半額にしかならなかったらがっくりしてしまいますね。

—プレーヤーの成熟度の問題などはM&Aが成長市場ゆえの過渡期の要素がありそうですね。

誰から買うのか、だれがついてくれるのかという事が重要な点になります。仲介会社か案件が来た時に、価格の判断を自分達でしている方が多いです。その時点では売り手サイドによっているので高い価格を出しているケースが多いです。そこできっちり見極めて適切な価格でオファーリングが出来るのかが大切なポイントになります。

著者プロフィール

小木曽公認会計士事務所 設立 所長 公認会計士 税理士 平成11年10月 監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)名古屋事務所 入所 平成24年12月 小木曽公認会計士事務所 設立 所長就任(現任) 平成26年5月 株式会社トレジャリンク 設立 代表取締役就任(現任)

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